『星降る夜に小さな願いを』
「ねーちょっと、エリ姐(ねえ)。このアクセめっちゃキレイな緑だよ!絶対エリ姐にピッタリのヤツじゃん!」
「そうね。可愛いわ」
そっけない返事された…。
アガサと喧嘩したあとだから、仕方無いよね。
リアスは鳥のクチバシの様に唇を尖らせ、両膝を抱える。
今日はエリン達と一緒に七夕祭りへ行く約束だったけれど、昼間に魔物討伐の依頼を終えた後、エリンとアガサが戦闘のことで喧嘩をしてしまったという。
エリン1人で祭りの会場に、アガサは公国へと別行動に移ってしまい心配になり、リアスはエリン、シルビアはアガサへとそれぞれ様子を見守ることになった。
リアスは祭りの催しからエリンの気晴らしになりそうな物を探しては声を掛けるも、なかなか上手くいかない。
何を言っても返事は『うん』と『そうね』の2つだけだ。
「リアス」
「ん?なぁに」
名前を呼ばれると、思わず背筋が伸びた。
彼女の青い瞳が、祭の灯りが映っている。
キレイだけど、どこか寂しそうな色。
「ごめんね?さっきから気を使わせて…」
「え?ああ、大丈夫だよ! 気にしないで」
さっきは素っ気なかったのに、謝ってきたのには驚いた。
ていうか、とても塩らしいエリンは初めて見た。
「約束をダメにつもりは無かったの、でも……」
泣きそうな声がして、リアスはとっさにエリンの手を引く。
こういう時なら、人間には人気の無い場所で落ち着きを取り戻させるのがベターだろう。
祭りの明かりから外れた暗い茂みの中へ、リアス達は足を運ぶ。
「エリ姐、大丈夫?」
「……うん」
そう言いながらも、エリンは顔を両手で埋めている。
にぎやかな祭りの音と人の声で聞こえにくいけど、かすかにすすり泣く声が聞こえた。
ポケットのミニタオルを取り出して、エリンに差し出すと小さな声でありがとうと言って受け取る。
リアスには見せないようにしてはいるが、涙を拭う動作をしているのが一目見てすぐにわかる。
「心配させて本当にごめんなさい」
「んもう!全然気にしてないから、大丈夫だって!」
「うう……私達……もうダメなのかな?アガサがあんなに怒った顔、今まで私に見せたこと無かったし……」
ああ、エリンが辛そうだ。
何か慰めの言葉を掛けないと!
「なぁにいってんのっ。大丈夫だよー!アガサちゃん優しいし、そんな事ぐらいで仲違いにはならないでしょ?」
「わぁぁぁ!!」
エリンがむせび泣いてしまった。
オレ、変なこと言っちゃったのか!?
「何が『大丈夫』よ!?無責任なこと言わないで!!」
「ご、ごめん!」
「もう!あんたなんか嫌!」
エリンが涙でいっぱいの目で訴えて、リアスにぐるっと背中を向ける。
どうしよう。泣かせてしまった。
人間(と言うかエリンの)気持ちが悪魔のオレにはわからないや。
だけど、ああ。だけども。
じわじわと全身が白くなったリアスはただ、硬直するしか無かった。
しばらく経ってもエリンはリアスの言葉を全く気に留めず、泣きじゃくる。
どうすればいいかわからず、ただ彼女が悲しむ姿を眺めてしまっているだけの自分がもどかしい……。
リアスはふと、祭りの風景をぼんやり眺める。
ここの人間と魔物達は種族の壁を全く感じられないくらい、とても平穏だ。
人間達なら、こういう状況にはどうしているのだろう?
「リアス、エリン姐さん!ここにいたの?」
シルビアがリアスとエリンの間に、ひょいっと入ってきた。
彼女の側にはアガサの姿があった。
「シルビア……?」
エリンが振り向くとアガサと目があってしまい、すぐに背けた。
アガサの手はエリンへ伸ばしたまま、止まっている。
「……アガサ君」
アガサの背中を押す様に、シルビアは囁く。
頷いたアガサはエリンの後ろに立つ。
「エリン。さっきはごめんね」
「ごめんねじゃないわよ!これからも戦闘は2人で強くなろうって言ってるのに、なんで聞いてくれないのよ!さっきもまた1人で突っ込んでいたわよね?」
「僕はずっと、戦いではエリンのお荷物でしか無かった。けれど、今は違う。僕にはチャームと冒険者の加護が―――」
アガサの言葉の途中で、彼の胸をエリンが叩く。
「お願いだから無理をしないで。あんたに、もしもの事があったら私が辛いし、1人にさせないで!」
「あ………」
息を飲んで、アガサはエリンを抱きしめた。
ごめんと言うアガサに、エリンは嫌をか細い声で繰り返す。
「もう君に心配させないから……泣かないで」
「ふん。アガサのバカ」
エリンはツンケンしているけど、とても嬉しそうな顔してる。
シルビアがリアスの腕を引いてきた。
そうだね。しばらく2人きりにさせてあげよっか。
「アガサくんの説得は大変だったよ……」
「あはっ。彼、意外と意思が固い人だったりするしね!」
「そうだな!アガサくんは勿論、エリン姐さんも元から素直になればいいのに!」
「本当それそれ!………あ!」
リアス達は色とりどりに飾られた笹を見つける。
「シルビアちゃん、願い事書いてみない?」
「気が合うな。私も君に聞こうとしてたんだ」
「よし、書こう書こうー!」
早速、笹の葉のすぐそばにある短冊に願いごとを綴った。
「リアス。君は何をお願いするんだ?私は、皆とずっと冒険を続けることだよ」
「オレ?えへへ。オレはね―――」
今日は七夕。
織姫と彦星よりも、エリンとアガサにはずっと長く一緒にいて欲しいから、短冊に……星に願いを込めるんだ。
笹の葉に飾られたオレンジ色のリアスの短冊は、銀色の星々が散りばめられた夜空の下で柔らかな風と踊っていた。
『星降る夜に小さな願いを』
-fin-
遅れてごめんよエリン。。
誕生日SSなのに主役がリアスになってしまった(しかも設定がTwitterだけでこのブログには未掲載)
お話の内容がアガサと喧嘩してしまったけど
最後には和解したし、これはこれで…((
来年はもしまた文を書くなら、もっと温かみのある話にしたいな。。
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