【羊羹と彼女】
羊羹を切らずに、袋から直で食べようとするエリンを目の当たりにすると、僕は思わず吹き出してしまった。
「食べ方、間違ってるから……!」
止まらない笑いを押さえた声は、とても震えていると自分からも感じた。
「えっ?! 変だった?」
彼女は戸惑って、顔を見上げる。
「それ、切って食べるものなんだよ?」
「嘘!? うぅう、恥ずかしい……!」
「ほら。僕が切ってあげるよ」
家の食器棚から皿とナイフを手にする。
袋から出した羊羹を皿に乗せて、ナイフで切って、竹ようじを添えてエリンに差し出す。
「ああ、これが正しい食べ方だったのね♪」
無邪気に笑いながら受け取るエリンは、早速竹ようじを取って羊羹を口に運ぶ。
「ふふっ、こっちのが食べやすいかも~っ」
羊羹を美味しそうに食べるエリンを、僕はぼんやり眺める。
ふと、あることを思い出した。
僕と出会う前のエリンは、連邦で自分1人が生きるために精一杯だったし、羊羹の食べ方だけじゃなく、他にも知らないことがたくさんあるのだろう。
僕はパートナーとして、エリンのために楽しいものをいっぱい教えてあげたい。
美味しそうに羊羹を頬張る彼女を見つめた。
「──なんてこと、あったよね?」
「そ、そうだったかしら~? 覚えてないわよ……そんなの」
紅葉の下の縁台に、僕の隣で座っているエリンはお茶を啜りながら視線を反らす。
僕の膝にある、羊羹を乗せたお皿をちらっと見た。
「ホントにびっくりしたよ。羊羹を直で食べる人が……ぷふっ」
「もう、その話はやめにしてってばっ」
ほんのり赤い頬が膨らんだエリンに、僕は羊羹を半分に切って、手を添えながら彼女に差し出す。
「はい♪」
「なっ………!?」
「ほらほら、あーんって。食べたいんでしょ?」
エリンが持つ抹茶が、ふるふると波を打つ。
「また、からかうつもり?」
「やだなぁ~。いじわるじゃないんだよ? またエリンに、美味しい羊羹を食べて欲しいからさぁ」
「嘘。笑い方が怪しい!」
ぷいっとそっぽを向くけど、エリンはちらっと羊羹を見るから、僕はぐいっと顔に近づけた。
「……んっ」
彼女は頬を赤めて、竹ようじが口に着かないように小さく開いて、羊羹を咥える。
羊羹は竹ようじからすんなりと抜けて、エリンは両手で口を覆う。
ふう、と一息ついたら、僕は彼女の頭を撫でた。
「よしよし。美味しかったでしょ?」
素っ気なく"ちょっとね"と返した後のエリンは、何事もなかったようにお茶を啜る。
次も食べてあげなくもないわよ?と、小さな呟きに僕は笑って答えた。
「もちろん。エリンのためなら、僕……いっぱいあげちゃうからね?」
彼女の頬のような真っ赤な紅葉を、ふと見上げながら。
紅葉イベントの周回中に、二人がイベントマップのお茶屋で会話してるところを書いてみたくなったのでw
あっちには羊羹の話が出てこないなど突っ込む要素はあるけど、細かいことはいいのだよ(((
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