【エリンとコノミ】
「起きるの遅すぎだよ、エリンッ!」
広がる平野にて野宿をしたエリンとアガサ。
朝には出発する予定だが、エリンがなかなか起きて来ない。
彼女は朝が苦手なのだ。
普段からエリンを甘やかしがちなアガサは、心を鬼にしてエリンを起こすのだった。
「もう朝なんだよ!?いつまで寝てるの!!」
「んにゃ……まだ眠いんだけどぉ……」
睡眠から離れずにいるエリンは毛布を深く被るが、アガサから問答無用と言わんばかりにひっぺがされた。
「やー!毛布返せー!」
手を何も無い宙へブンブン振る。
「ダメです! 早くご飯食べて、出発の準備しなさいっ」
「ちっ、うっせーなババア……」と、エリンは反抗期の子供になりきって返事をし、体を起こした。
「さっさとやる!」とアガサがツッコミを入れると、その場から離れた。
装備を整えて寝癖を直し、睡眠用の寝具を片付けてアガサの元へ向かうと、錬金術で作られた紅茶の香りにふわりと包まれた。
エリンはアガサの隣に座ると、朝ご飯を手渡された。
今日はクロックムッシュだ。
「朝ご飯ありがとね~。美味しそう!」
「今日のはチーズ多めに作ったんだよ」
「やった!」と言って、エリンはクロックムッシュをパクついた。出来立ての味が口に広がる。
「んん~…おいひい!」舌鼓を打って1つめを平らげる。2つめに手を出そうとするが、皿にあった筈なのに、こつぜんと無くなっていた。
「あれ…?」
ふと顔をあげると、ゲルミがクロックムッシュを持っていた。
「あっ! アイツ…!」
エリンは皿を置いて、ゲルミを追いかける。気付いたアガサは紅茶の入ったカップを置いてすぐ、エリンの後に続いた。
ゲルミは木の影へ逃げ込むが、エリンはすぐに追い付いた。
「観念なさい? わたしのクロックムッシュを返してもら……」
何かに気付いたエリンは、地に両手をついて覗く。
後から来たアガサに手招きをして、指すと──身体中に傷を負ったコノミが横たわっていた。
ゲルミからクロックムッシュを差し出されるが、口へ運ぶ気配が無い程に弱っている。
「さっきのゲルミ、友達のために私のご飯を盗んだのね」
「あのコノミ、酷い怪我をしてる……誰にやられたんだろう?」
エリンがコノミに手を伸ばすと、コノミはパニックを起こし、エリンの手を叩く。
「っ……!」
「エリン、大丈夫?」
「平気よ。それより、この子の怪我を早く治さないと……」
アガサはあるものを思い出して、上着を探ってエリンに差し出した。
「公国のメイドさんに分けた精旅丸が、余っていたんだ。これをコノミに使ってあげようよ」
精旅丸を受け取り、再びコノミに近づく。
「……!」コノミの顔が恐怖で歪み、目にはうっすらと涙を浮かべている。
「怖がらないで……もう、大丈夫だから」
抱き上げて精旅丸を手にするが、腕を噛みつかれる。
それを見ていたアガサが止めに入ろうとするも、エリンが首を振って拒んだ。
精旅丸をコノミの傷に塗り終えて、ゆっくりと下ろした。
「しばらくすれば、怪我は治るわ……」
小さな子供を慰める母親の様な、優しい声。
コノミの緊張が解れて、笑顔を取り戻すと、ゲルミが駆け寄った。
エリンの手をぷるぷるの頬っぺたで擦り付けて、仲間を助けてくれた『感謝』の眼差しを向けた。
エリンが微笑んでコノミをゆっくりおろして、手を振り、ゲルミ達を後にした。
「ねぇ、エリン。腕……」
「平気よ。この程度で堪えちゃ、レディ失格だしぃ?……みたいな!」
「血が滴ってるじゃない!いいから僕にかして!」
アガサはエリンと岩に腰を掛けて、どこからか取り出した救急箱を展開し、傷の手当てした。
「もう。君は危なっかしいんだから…」
「私がやらなきゃ、あのコノミはずっと怪我したままよ?」
「それもそうだけど、自分のことも大切にしなきゃ元も子もないから!」
「……大袈裟だし」とエリンは口を尖らせるが、すぐにニッコリと唇を広げる。
「でも、ありがとね。……ねえ、アガサ。ちょっとこっち向いてくんない?」
「なに?」
アガサがエリンの言われたとおりにすると、膝に身を乗り出され、頬に柔らかい唇の感触がした。
「えっへへー。これはお礼♡ 優しいアガサ、ホントに好き!大好きー!(なんてね♡)」
ぎゅっとエリンに抱きしめられると、アガサの顔が燃え上がる様に熱く赤くなり、岩から崩れ落ちてズドンと重い音が響いた。
「え?!……やだっ、アガサがヤバいことに!!」
──その後。エリンがアガサを何度も起こそうとしても、アガサはしばらく目が覚めずにいたと言う……。
【END】
【あとがき】
お久しぶりの更新です。
アガエリSSいかがでしたか?
エリン誕生日記念のSSを投稿した後、画像じゃちょっと見辛いかな?と思い、今回はブログのテキストで書いてみました。
エリンのキャラの特徴を生かしたお話が書きたかったのですが、この話で伝わったかなー…?
この他にも色んな小話を書いていって、エリンとアガサの事をもっと知ることができればなぁと思います!
(あれ?前にも言った気が…w)。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
次回の作品の投稿までお待ちください♪
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