【なんちゃってノベル】頑張るアガサ


ぷらいべったーよりお引越し
(当時はログ限での公開でした)
 


 ──頭が痛い。
アガサはベッドに腰を掛けて、水のうで冷やしている。
チャームを貰ったばかりで、ジョブの力を上手く扱えず、結局──またエリンに助太刀させてしまった。
1日でも早くエリンの役に立ちたいのに、自分がとても情けない。
 でも、落ち込んでいる場合じゃない。
水のうをサイドテーブルに置いて、武器を手に取り部屋を出る。
物思いに浸っているなら、修行に時間を費やした方が絶対に有意義なんだ。
リビングのドアを開くと、台所に立つエリンの姿があった。

「エリン。なにをして……」
「うきゃあーーっ!?」

 エリンにつられて、アガサも仰け反る。
心臓が5ミリほど動いたかもしれない。

「もう!いきなり声掛けないで……!」
小刻みに体を震えているエリン。
「こっちだってびっくりしたよ。ああ、脂汗がでた……」

 エリンの後ろには、まな板の上で無造作に切り刻まれた月夜見草が見えた。
けれども、なぜか包丁が垂直にまな板へ突き刺さっている様が異質なオーラを纏っている。

「もしかして、精旅丸を作ろうとしてたの?」
「そうっ。あなたの為にね!」

 エリンは胸に手を当てるが、その手は絆創膏だらけだった。
錬金術は苦手な彼女がアガサの為に、精旅丸を作ろうとしていたのだろう。その手を一目見ればわかる。

「その……アガサも何をしているのよ」
「僕? 修業をしに行こうと思って」
「だめっ!部屋で安静にしてなさいっ」と、指で頬をぐっと押す。

「それに、焦ってもすぐに強さを得られるわけじゃないんだから!私と一緒に頑張って強くなればいいじゃないっ」
「でも──ううん。ごめんね、心配をさせて……」

 口では強気だけど、目はとても悲しそうな色を帯びている。
そんな彼女を目の当たりにすると、反論なんてできるわけが無い。

「まったくもう……」と口を尖らせながら、精旅丸と水の入ったタンブラーグラスを差し出す。

 アガサは小さな声で礼を言い、精旅丸を口に水で流し込む。
とても苦いのに、どこか優しい味が微かに感じた。

「ありがとうエリン。この精旅丸、僕のよりとても効きそうだよ」

 頭を撫でると大きな彼女の目がぱちくりと開いて、アガサを見上げる。

「……どうも」と顔を僅かに赤くして、顔を背けた。


 そう。彼女の言った通り、ゆっくり頑張っていけばいいんだとアガサは微笑んだ。


悠然画帖 -ユウゼン ガチョウ-

管理人:柚月 真桜 「好きなものを好きな時に描く」をモットーにブログ運営中。 PCが無いのでAndroid版メディバンペイントを愛用。お絵描きのお供はいつも好きな飲み物とお菓子で。